市民主導で進む 多摩ニュータウン再生と健幸都市の実現 ―阿部裕行・多摩市長インタビュー

コラム/インタビュー
多摩市長・阿部氏

 

多摩市長・阿部氏


 ―多摩ニュータウンは、日本が一番元気な時代に誕生した街だが、少子高齢化と人口減少が進むなかで街の活力を維持・向上するために、どのような取り組みをしているのか。

阿部氏 2021年は多摩ニュータウン誕生と多摩市の市制施行から50年目になる。高度経済成長が進むなかで働く人たちの生活の場として、各地にニュータウンがつくられたが、多くの場合は既に虫食い状に宅地化が進んでいた。国が手付かずの土地が多い多摩丘陵に目をつけ、乱開発の防止と良好な住環境をつくるまちづくりが行われた。初めての試みも多く様々な課題が浮上した。多摩市としても分譲住宅と賃貸住宅の比率、緑地面積の割合、業務用地をどう確保するかといった問題を提起した。
 多摩ニュータウンは新住宅市街地開発法にもとづいて開発されただけに、当初は商業・業務地についてあまり考えられていなかった。今では当たり前の職住近接も、当時は概念さえなかった。現在は団地をつくるとき、1住戸1台分の駐車場を用意するのは常識だが、モータリゼーションが始まったばかりで、団地の完成後に緑地を駐車場に転換することもあった。
 それから半世紀が経過しまちも成熟した。団地の中からも建替えを進める動きや、外断熱やエレベーター設置といった大規模改修をすることで、より住みやすい住宅とする動きなどが出てきている。
多摩市としても2015年(平成27年)に出された多摩ニュータウン再生検討会議の提言を受けて、16年(平成28年)3月に再生方針を策定し、体系的な再生を目指している。持続可能なまちをつくるための方向性等を共有することを全体方針とし、三つの個別方針を打ち出した。一つは都市構造、二つ目は住宅建築物等のハード分野、三つ目は生活や魅力発信等のソフト分野である。
 再生方針をもとに都市のあり方をどう考えるか、リフォームや建替えも含めて住宅都市としてのステータスをどう維持するか、待機児童、高齢化、エネルギー等の環境に優しく住み続けられるまちを作るために市民の皆さんとともに取り組んでいる。毎年2月に市民や関係者との情報共有や意見交換の場としてシンポジウムを開催している。6回目の今年は永山駅周辺のまちづくりについて市民からの提案を中心に意見を交換した。

大規模マンション再生のモデル的な存在
諏訪二丁目住宅の建替え

―永山で団地の建替え事業が成功したが、高経年団地の再生には今後、どのように対応していくのか。

阿部氏 諏訪2丁目住宅は5階建てでエレベーターがなく住戸も狭くて画一的だった。建替えにより住戸面積も約43㎡から約101㎡と多様化し、ライフスタイルにあわせて選ぶことができるようになった。敷地面積6・4㏊、640世帯の合意による大規模な分譲住宅団地の建替えは全国的にも前例がなく、事業を実現するために国や東京都とも連携し、法改正等を要望する市民による署名活動も行われた。多摩市も建替えを核として住宅市街地総合整備事業を実施し、遊歩道、公園等を整備し周辺環境もかなり向上した。
 分譲団地やマンションを再生する場合、区分所有者の合意形成が基本だが、諏訪2丁目住宅では20年近くかかった。建物を建替えるだけでなく地域コミュニティをどうするのかも大きな問題だ。640世帯の団地が1249世帯、3000人超の新しいまちに生まれ変ることができたのは、管理組合の皆さんがまちづくりに一致団結して向き合ってきた結果でもある。
 東日本大震災の直後に販売されたが、コミュニティや地域共生、支え合いや絆が重視された。新たに開発されるマンションと違い、既にコミュニティの核になる方が500人近くいた。緑化活動やお年寄りの見守り活動等をされてきたことが、新たに住宅を購入する方たちにも評価された。こういうマンションなら安心して住めると言われていることは、本当にすごいことだと感動した。子育て世代の方も多数入居され、管理組合等で夏祭りをされている。私も招待をされて参加するが、大規模マンション再生のモデル的な存在だ。
 第2弾、第3弾となる再生も促進していきたい。容積率を最大限活用するなどで区分所有者の方があまり負担を感じないようにしたいが時代状況や経済環境が合致しないと難しい。建替えがすべてではなく、長く住み続けるためのリニューアルによるグレードアップもある。管理組合は大規模改修を含め色々な方法にチャレンジしていただきたい。

─管理組合の合意形成には地域の様々な活動も寄与したのでは…。

阿部氏 多摩市全体で生協や子育て支援等が盛んで、一時期は相当な数の野球やソフトボールのチームがあった。テニスコートもたくさんある。スポーツ、趣味、芸術等を含めると相当な数のNPOがある。リタイアされた高齢者の皆さんがグランドでのゲートボール等も活発だ。
 多摩市は健康寿命が男性83歳、女性86歳で都内の自治体でトップ。健康な方が多く介護認定率も都内で一番低く元気な方が多い。スマートウェルネスシティを目指して「多摩市健幸都市宣言」を制定した。自分や家族、周囲の人の健康を大事にする拠点として9箇所のコミュニティセンターがある。市民による運営協議会が指定管理者になり、介護予防教室、ウォーキング等に取り組んでいる。行政主導ではなく地域の皆さんが自分たちで地域を元気にし、まちの魅力をアピールする活動が各地で開催されていることが一番の強みだ。
 丘陵地帯のまちだから高低差があり歩く機会が多いこともフレイル予防になっている。確かなエビデンスはないが、断熱性の高い集合住宅に市民の7割が暮らしていることも健康寿命を押し上げている要素ではないか。もしかしたら50年かけて壮大な実験をしているのかもしれない。
 地域包括ケアシステムについては、多摩市のなかでも地域によって条件が違う。永山地域には賃貸団地にお住まいの方が多いので、商店街のなかに高齢者見守り相談窓口も入れて地元の医療機関とも連携、顔の見える関係を子育て中のお母さんも含めてつくるようにする。地域によって違いがあるので、永山モデルで上手くできるエリアもあれば違うエリアもある。地域包括支援センターは一般に高齢者関係の施設に中に置かれることが多いのが、多摩市では顔の見える関係ができる、商店街やコミュニティセンターといった多くの人が集まり出会えるところにおきたい。
 今、考えなければならないのは、元気な一人暮らしの高齢者の方のことだ。行政は既に介護認定を受けているような方はフォローできるが、元気でいる方にはケアマネの訪問等がない。元気な一人暮らしの方を支えていく仕組みが必要だと思う。

交通網整備で、企業進出も増える

―働き方改革や定年延長も進む。高齢者や子育て期の人のために、もっと職住接近で仕事をする場があるといいのではないか。
阿部氏 多摩市は立川市、八王子市とともに業務核都市に指定されている。多摩センター駅周辺には長谷工の研究所や管理センター、マンションミュージアムもできた。KDDIも通信局舎、研修センター、展示室等をつくると聞いている。テレワークに対応する施設も増え、京王プラザホテルの会員制サテライトオフィス、女性の活躍を支援するキャリアマム等もあり、いずれも満室になるくらい反響があった。緑と住環境が豊富でワークライフバランスのとれた多摩市のもつポテンシャルが発揮できる。多摩モノレールの延伸計画もあり、小田急線が延伸するというニュースもある。多摩センター駅周辺はまだまだ発展する余地がある。
 市内には六つの大学がある。オリンピック自転車競技のロードレースの開催会場になったこともあり、オリンピック・パラリンピックに向けて多摩市内にある六つの大学による連絡協議会ができた。近隣にも大学が多数あるので連携を強化していきたい。

―自転車競技のルートには南多摩尾根幹線も入っているのか。

阿部氏 サイクリストの間では「世界のONEKAN」と言われているようだ。多摩ニュータウンの南側を東西に横断する南多摩尾根幹線は、自動車の排気ガス公害が問題になったため凍結状態になっていた。車の性能も良くなり排気ガスのない電気自動車も普及する。尾根幹線を新しい時代にあわせて再整備することになっている。唐木田地区は四車線化が完成している。尾根幹線が完成すると人とモノの流れが現在よりもずっとスムーズになり、多摩市の発展にとっても大きなプラスになる。
 加えてリニア新幹線の駅が橋本にできると品川から10分、名古屋とも30分で結ばれる。
日本の物流や経済が大きく変わると多摩市もさらに変ると思う。

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