対談/役割が増すエリアマネジメント マンションと地域をつなぐエリアマネジメント     先行する2団体の事務局長が語る、現在と未来

コラム/インタビュー

特定非営利活動法人小杉駅周辺エリアマネジメント事務局長・塚本りり氏

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一般社団法人まちにわひばりが丘事務局長・高村和明氏

司会=飯田太郎・マンション管理士/TALO都市企画代表

 国土交通省が「エリアマネジメント推進マニュアル」を作成して10年が経過した。検討会座長を務めた小林重敬氏はマニュアルの「はじめに」で「まちづくりの中心が開発(デベロップメント)から管理運営(マネジメント)にも配慮したまちづくりであるエリアマネジメントに移行し始めている」と書いている。マンションでは早くから強調されてきた維持管理重視の考え方が、地域社会やまちづくりでも必要とされてきたということになる。東京23区で住民の30%以上をマンション居住者が占めるなど、ハード・ソフトの両面でマンションが都市部の地域づくりの要ともいえる存在になっている。マンションの管理組合や居住者のなかに蓄積されてきた管理運営の問題意識やノウハウを、地域社会のなかで生かすことができれば、マンションと地域の双方にとって大きなメリットがある。武蔵小杉とひばりが丘、2つ地域のエリアマネジメント組織の事務局長である塚本りり氏と高村和明氏に、これからの地域とマンションについて語ってもらった。

管理組合の枠を超えるエリマネ組織の活動

地域の歴史と文化を新住民に伝える

司会 エリアマネジメント組織(以下、エリマネ)が存在することで、個別のマンションの管理組合ではできない活動が行われていると思うが・・・。

高村氏 ひばりが丘の場合、約300戸が1棟、他の5棟は100戸程度でマンションの規模がそれほど大きくないこともあり、一緒に活動するようにしている。個々のマンションごとに懇親会等のイベントも行うが、それだけではなく公園等を使い連携して活動している。これはエリマネ組織があることでできることだと思う。ひばりが丘には公団賃貸住宅の居住者によるひばりが丘団地自治会があり、夏祭り等を行っている。エリマネ組織が窓口になることで分譲マンションの居住者たちも参加するなど毎年一緒に活動できる。自治会と違いマンションの管理組合は役員が1~2年で変ることが多く、地域活動に積極的に関わる理事がいる時はやるが、いなければやらないという傾向がある。エリマネ組織が中間支援の立ち位置で関与することで共同活動が毎年継続する。お祭りの他にも防災のイベントをしている。

塚本氏 武蔵小杉でも一番大きいのは対外的な窓口としての役割だ。高層マンションが何棟、何千世帯もある。行政や警察等が個々のマンションに何かを依頼したり伝えるのは大変だ。エリマネが窓口になり、いったん受けて各マンションに伝えることでスムーズな協力関係ができる。武蔵小杉の情報発信の窓口としてマスコミの取材にも対応している。高村さんが言われるように、近隣の町会等は役員が継続することが多い。管理組合理事はどんどん変わるから、両者が提携していくうえでもエリマネ役割は大きい。

司会 お二人の話で共通しているように、管理組合は理事が輪番制等であるため、その時の理事長の考え方で活動内容が変わることが多い。町会や自治会は役員の体制等が継続している。管理組合活動の一貫性と継続性を保つことは、地域との関係だけでなく一般的にも大きな課題だと思う。武蔵小杉のエリマネ活動のなかで重視されていることは何か?

塚本氏 湾岸の埋め立て地等とは違い古い工業地域を再開発したところにマンションが建った。宿場町以来の歴史や文化の集積を受け継ぎ発展させることが重要だ。武蔵小杉商店街とエリマネの有志による実行委員会が開催するコスギフェスタも、地域とマンションの人たちの交流の場になっている。

司会 エリマネ組織と行政との具体的な関係について。

高村氏 ひばりが丘では西東京市・東久留米市の両行政と何か交渉をするような接点はまだない。西東京市とはURを通じて、市の創業支援、女性活躍支援事業等をひばりが丘で実施するときの窓口的な役割をしている。周辺には農家も多いので市の産業振興に協力する視点で“にわジャム”等のイベントにも農産物を出展してもらっている。西東京市では公園に指定管理者を導入しているので、指定管理者と連携して公園を活用するプロジェクトも進めている。行政との接点は市民活動をサポートするような形で進めていきたい。

塚本氏 コスギフェスタの会場でもある武蔵小杉駅前のこすぎコアパークは、駅前商店街と小杉三丁目町会とエリマネの管理運営協議会で活用方法を話し合っている。都市公園だから行政も含めて検討しているが、現在の制度上の矛盾も出てきた。エリマネが年間50万~60万円出してコアパークの清掃を行っている。本来は行政の仕事だが都市公園には一律6万円しか出せないという。また、公園をイベント等で活用するときの占有料がいつの間にか値上げされている。それはおかしいと議論しているところだ。

買い物や犬の散歩など、近隣同士の助け合いや

居住者の老いを考えてそれに対処することもエリマネの役割に

司会 エリマネ組織を介した住民同士の交流は。

塚本氏 東京都市大学が9棟・5000戸を対象にアンケートを行った。子育て世代は30代、40代も多いこともあり、SNS等も使いながら思ったよりもコミュニティができている。一方で50歳以上はアクティブに外出をしているが、人と話す時間は非常に少ない。近隣で話す人が3人以下という人が半分、そのうちの半分はゼロという状態で、孤立している人が少なくない。囲碁のサークルをやりたいという人を世話人として呼びかけたら70~80人が集まった。日曜日はサンデーモーニングを見た後はやることがないという人もいて、シニアを対象に囲碁の他に将棋、チェスのサークルをはじめた。第二弾としてヨガ、健康マージャン、ゴルフ、カメラ等の仲間を集めている。アンケートで何をしたいか、参加したいかを聞くと、趣味や学びのサークルといった一緒に楽しむ機会を望んでいる。市民アカデミーと提携した講座の開発、市民ミュージアムで自由に映画を見ることができるサークル等を検討している。まだ実施していないが新しい試みとして、近所同士の助け合い、お買い物、犬の散歩、付き添いなど、遠くの親や子供を呼ぶほどでもないことについて頼みたいことがあるか、その位のことならやってあげてもいいか、について需要調査のアンケートを今行っている。

高村氏 マンションを横断して声掛けをしているためか、マンションをまたいで飲み友達がたくさんいるお父さんたちがいる。まちにわの活動を通して知り合った人が、LINEを使って連絡を取り合い、5棟のマンションを超えた忘年会を計画している。サークル活動はコミュニティスペースのひばりテラス118でヨガ、ベビーマッサージ、英会話といった習いごとの講座を近隣住民が主催しているためか、あまり目立ったサークル活動は少ないように思える。行政の公民館はお金をとる有料の集まりには使えないが、ひばりテラス118は有料講座もできるカルチャーセンター的な要素もあるので色々な交流が生まれている。施設で商いとして講座をしている方もいるため、特定の人に手を差し伸べると公平性に欠けるということが少しい問題だ。

司会 高齢者はまだ多くない?

高村氏 分譲マンションには戸建を売って越してきた60代、70代の人もいるが、メインは30~40代。賃貸団地の方は高齢化が進んでいる。まちにわができる前から居住者の機微情報の共有も含めて大家さんであるURと両市の民生委員、社会福祉協議会、地域包括支援センターが協議する会合があり私たちも参加している。

塚本氏 URが団地マネジャーを置いてケアをしていると聞いたが…。

高村氏 団地マネジャーがいるが、管理会社のJS(日本総合住生活)も窓口業務担当の他に各戸を訪問するコミュニティマネジャーのような人を置いている。団地の住民向けのイベント企画などもしているが、私たちも話が通りやすくありがたい。

司会 団地再生事業の一環だと思うが高齢者施設をまとめて作っている。

高村氏 特別養護老人ホームが2件、介護老人保健施設が1件、グループホーム・小規模多機能が1件。サ―ビス付き高齢者向け住宅が2件あり、周辺地域の人が利用している。団地のイベントに参加したり、団地の住人がスタッフとして働いている。

司会 小杉のエリマネはNPOとして公益事業と共益事業がある。共益事業のなかで管理組合活動のありか方等も検討していると思うが…。

塚本氏 各マンションとも管理組合がしっかりできている。専門委員会も5~6あり、理事会同士、専門委員会同士のつながりがある。管理組合経営について修繕積立金や大規模修繕工事のこと等をギブアンドテイクで情報交換をするなど、管理組合として切磋琢磨する文化がある。建物の老いは管理組合の問題だが、人間の老いは誰が面倒を見るのか? 行政もマンションの各住戸までとても面倒を見きれない。管理組合には建物管理をするだけでも精一杯なのに、それ以上のことまで俺たちにしろというのかというか意見もある。

司会 地域包括支援センターが高齢社会の支えになるというが、エリマネが代行していくこともあるのではないか?

塚本氏 あると思う。管理会社が人のケアにどう取り組むかも興味がある。

司会 ひばりが丘の場合はまだ管理組合が抱えている問題をお互いに云々するところまではいっていない?

高村氏 現在、防災委員会が少しずつ立ち上がっているところだ。

地域の新しい代弁者としての役割を果たすためにも

必要なエリマネ関連の法制度整備

(編集部) エリマネのテーマでインタビューした横浜市立大学の斉藤弘子教授(3面に掲載)から、人材の育て方を知りたいと言われている。

高村氏 デベロッパーやURに所属する役員と同じようにHITOTOWA.INC(ひととわ)が事務局を務めるのも19年度までということで仲間づくりに力を入れている。

司会 武蔵小杉の場合、当初は川崎市の職員が実態的に事務局をしていたが、区分所有者で管理組合役員だった塚本さんが事務局長になった。そんな姿を考えているのか。

高村氏 必ずしもマンションの人にとは限らない。事務局の業務は専門性が必要な部分もあるので、エリマネの事務局を担う志のある経験者にパスしていきたい。 

司会 活動を担う住民ボランティアを「まちにわ師」と呼び、養成講座を開催するなどしている。

高村氏 活動への関わり方が多様化し、まちに係るコミュニティがいろいろできている。“まちにわ師”という枠組みにはめ込まれるのは嫌だという人もいる。“まちにわ師”だけでなく、社団法人にポジティブに係る人を増やしたい。サークルを運営してくれる人でもいいし、マンション横断のお父さんの会みたいなものも実際に手伝ってくれる。

塚本氏 真正面からエリマネの理事をお願いしたいと言うと、何か背負わされてしまいそうな感じがして腰が引ける。サークルの世話人なら自分も楽しめる。あるときは参加者だが、あるときは世話人になるといった、いろいろな参加の仕方をつくることが大切だ。

(編集部) 斉藤教授から、武蔵小杉のエリマネは第2ステージを迎えるが、今後どのように展開するのかも聞かれている。

塚本氏 デベロッパーが違うマンションが地域で横につながることは普通にはないが、エリマネ組織があることで連携できた。10年経過し歴史や経験も違い、エリアごとに地域とのつながりも生まれる。特に防災は避難所運営等に違いがある。マンション同士がつながり切磋琢磨し、頑張って行こうという段階から、高層マンションの自治をどう考えるかが課題になっている。これまでマンションは敢えて自治会を作ってこなかった。地域の町内会の重要なテーマのゴミ処理や清掃等は、マンションでは仕組みが整っているから基本的に解決している。また町内会や自治会には行政がいろいろな事務を依頼してくるが、マンション居住者はお断りしたいという気分がある。しかし一方で再開発が始まって10年以上経っているので夫婦の片方が亡くなったところもチラホラある。最近は戸建てを処分したお年寄りがマンションに入ってくるケースも増えている。ところがマンションの5000戸に対し民生委員が2人しかいない。セキュリティも厳重だからマンション9棟のお年寄りをケアすることが行政上の仕組みでは立ち行かない。こうした助け合いをどうするかといったことも含めた自治の仕組みづくりを学識者も入れて検討している。行政と一緒に組み立てていかなければならないが、高層マンション風の自治会というのを作っていくことが住民にはわかりやすいのかもしれない。

司会 マンションと地域が連携するエリマネはまだ少ない。一般のマンション管理組合や居住者たちへのアドバイスをお願いしたい。

塚本氏 マンションと戸建住宅街の町内会や商店街等の住み方、考え方、価値観といった文化の違いがある。お祭りなどでも地域の人はマンションから100人位連れてこいという。町会には上下関係のようなものがある。町会長が言えば、わりとその通りになったりするが、マンションは会社のような組織ではない。そこがなかなか分かってもらえない。時間をかけて何回も話し合い、少しずつやっていくことが大切だ。

高村氏 ひばりが丘の周りにも都営住宅や大型マンションがあるが、現在のところ何か一緒にやってはいない。排他的にならずコミュニケーションを取れる素地をつくることが重要だ。有事の際の対応や子供の通学路の見守り等での連携が必要になると思う。再開発等なら組織が住民から会費をとる枠組みもできるが、既成の地域では難しい。会費の有無にかかわらず地域の代弁者になり、地域の価値を上げることが重要だ。HITOTOWAは近くに住む人々の信頼関係づくりを通して、防災減災、孤独な子育て、独居老人の増加、環境問題など都市におけるさまざまな課題を解決していくネイバーフッドデザインを提唱している。組織の形にはあまりこだわらず、地域の代弁者になれるかどうかが課題になる。この場合、公園や病院が多いといったことだけでない新しい指標、例えば島原万丈氏が「官能都市」で示したような共感や居心地の良さを表す新しい指標を考えることも重要だ。

塚本氏 日本では一部の商業地を除きエリマネの仕組みが十分整備されていない。地域再生法の改正でエリアマネジメント負担金制度が創設された。住宅地やマンションでも受益者である住民から資金を徴収する法的な仕組みがほしい。

■エリアマネジメント組織の概要

⦿特定非営利活動法人小杉駅周辺エリアマネジメント

 川崎市が日本を代表する工業地域だった武蔵小杉駅周辺を再開発するにあたり、地域の将来構想にエリアマネジメントを位置づけ2007年4月設立された。設立当初の運営は町内会、商店街等の既存住民と市役所による協働で行われたが、マンション供給が進む中で新住民を含む運営体制ができた。

 現在、役員(理事24名 監事1名)は、既市街地住民12人、マンション住民13人で構成。マンションの管理組合役員経験者の塚本りり氏が事務局長を務めている。活動費の多くは1世帯当たり月額300円のマンション会員が占めている。

 事業内容は、不特定多数の者の利益の増進に寄与する公益事業と、活動内容が法人の会員等の特定の者に限定される共益事業に大別される。

⦿一般社団法人まちにわひばりが丘

 旧日本住宅公団(現UR都市機構)が供給したひばりが丘団地再生事業のために、新たにマンション等の施設がつくられることに際し、開発事業者4社(大和ハウス工業、住友不動産、コスモスイニシア、オリックス不動産)とUR都市機構を中心に2014年6月設立された。設立当初の運営費は開発事業会社からの拠出金が中心だったが、新規分譲マンションの入居が進み、月額1世帯300円の会費が増えている。URが提供した旧団地の建物を利用したコミュニティセンター「ひばりテラス118」を中心に活動、事業収益もあがりはじめている。現在、理事は開発事業社4社の社員、監事はUR都市機構の職員、事務局長をHITOTOWA INC.の高村和明氏が務めているが、2020年度以降は住民主体の運営ができるように準備活動している。

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