多摩ニュータウン再生に向けて

政策動向

 高度経済成長期を代表するプロジェクト、多摩ニュータウン(NT)。東京圏への急速な人口流入と住宅難への対応として計画的なまちづくりが行われ、歩車分離方式の導入など先駆的な取り組みを進めてきた。一方で現在は高齢者人口の増加と人口減少、住宅や施設の老朽化による「2つの老い」が進行し、再生が迫られている。そうした中、東京都は多摩ニュータウン地域再生ガイドラインを策定。2040年代を目標に住宅の再編に合わせた都市機能の再配置などを目指す方針を掲げる。自治体や市民のレベルでも再生に向けた動きが活発化している。それぞれの取り組みから、団地再生の今後の方向を探った。

 東京都、多摩ニュータウン地域再生ガイドラインを策定、近隣住区の構造を転換へ

 東京都は2月19日、多摩ニュータウン地域再生ガイドラインを策定した。再生に向けた課題や目指すべき将来像を示し、都としての考え方を掲げるとともに、再生の担い手となる自治体や事業者、市民など各主体と共有し、歩調を合わせた再整備を目指す。
 再生に向けた基本的な考え方には①住宅や生活基盤などのストックを時代に合わせたリニューアル②大規模低未利用地の活用による多摩イノベーション交流ゾーンの形成③道路・交通ネットワークの効果を生かしたまちづくり―の3項目を柱に据える。住宅の近くで生活に必要な商品がそろう近隣住区の都市構造を改め、駅周辺や道路沿道に生活を支える機能を集積しつつ移動の円滑化や利便性の高い都市への改革するのが主眼だ。また、隣接する相模原市の橋本駅付近にリニア中央新幹線の新駅が設置されることから、接続する幹線道路の整備や沿道への商業・産業系施設の誘致を強化し、NTの価値向上に生かす。
 NTでは各住棟の中央部に店舗を集約した近隣センターが置かれ、住民の生活を支えていた。それが施設の老朽化や住民の高齢化、アクセスの悪さなどから来客が見込めず空き店舗となるケースが目立っている。そこで、店舗や商業施設を道路の沿道や駅周辺に再配置し、来訪者の来やすい環境につくりかえる。そうした用地は団地建て替えなどの際に創出し、店舗や商業・産業施設の進出を誘導していく。
 都市機能の再配置は、歩車分離としていた構造にも変化をもたらしそうだ。現状では跨道橋による迂回がかえって移動を阻害しているケースもあるほか、福祉用車両を住棟の近くまで進めるための道路が狭かったり、車両の駐車スペースがないといった課題も生まれている。都市機能の再配置に合わせ歩行者と自動車交通を近接させる必要もあり、都ではNTのバリアフリーの機能的なあり方について2018年度から検討に入る方針だ。
 また、新たなビジネスを生み出す環境の整備とそこで働く人の住まいの提供という両輪で再生を進める。都では、NTを含む地域を大学や企業、研究機関などの集積により多様なイノベーションの創出を図る「多摩イノベーション交流ゾーン」に位置付け、NTをその拠点とする考え。拠点形成に向けた取り組みを、新たな住民確保の呼び水にする。
 ひとつのイメージとしては、近隣センターの跡地をコワーキングスペースやインキュベーキョン施設、交流拠点機能などに再編し、施設を活用する人材が近接して廉価で居住できる住宅の整備や仕組みの構築などに取り組む。住居をリノベーションし、留学生など外国人を受け入れる形なども模索する考えだ。
 東京都の齊藤敏担当部長は「都としては広域的な視野に立って知恵を集約する仕組みをつくりたい」とし、ガイドラインで示した内容を具現化するための地元を交えた新たな検討組織の設置などを検討する。

 多摩ニュータウン再生プロジェクトシンポジウムが開催、シェアタウンの可能性など議論

 多摩市は2月3日、多摩ニュータウン再生プロジェクトシンポジウムを開いた。13年度に多摩NTの再活性化、持続化を目的に学識経験者、東京都、都市再生機構、市民代表らによる「多摩ニュータウン再生検討会議」(委員長=上野淳・首都大学東京学長)が設置されてから毎年開かれ今回で5回目になる。
再生検討会議の提言をもとに、市は16年に「多摩市ニュータウン再生方針」を策定。再生検討会議も再生推進会議に衣替えした。再生方針は「惹きつけられ、住み続けられるまちへ」をコンセプトに「若い世帯を惹きつけ、住み替えできる循環構造の整備」と「多様な拠点の強化連携型によるコンパクト再編」をめざす。先行再生地域である諏訪・永山地区を「多摩NT再生をリードするフロントエリア」とし、駅と医療、子育て、福祉拠点を連動させたコンパクト型エリア再編を契機に「健幸都市」をつくり発信する。
 シンポジウムは阿部裕行市長の挨拶の後、再生推進会議の西浦定継氏(明星大学教授)が「諏訪・永山まちづくり計画」について報告。続いて社会学者の三浦展氏が基調講演「2040年をデザインする~郊外を脱して、本当の街へ」で、多摩NTなどの郊外のあるべき姿のキーワードとして<ワーカブル> <シェアタウン> <夜の娯楽>の3つをあげた。
ワーカブルには、23区への人口転入が進み、働く女性ほど都心に住む傾向にあることから、子育て世代が住みやすく、高齢者が働きたくなる、在宅勤務がしやすくする意味を込めた。シェアタウンは、シェアハウスへの居住意向が単身者を中心に増加し、誰もが一人で生きられるセルフケア社会になるだけに、必然的に一人前では生きられない「シェア社会」となることを指摘。空いている場所、能力をシェアし、お金をかけずに働く場所と足りない機能を補い合うシェアタウンとして発展する可能性を示した。
 夜の娯楽は、ベッドタウンとして計画されたNTには、仕事や家事育児の後に地域とつながりくつろげる場所が少ないが、各地の郊外で住民の創意工夫によるカフェなどが誕生している点に着目した。三浦氏はハードの整備を中心に構想される行政による計画や指針を実現するためには、女性、子育て世代、シニアなどの市民の力を生かすことが不可欠だと締めくくった。
 最後に行われた阿部市長、三浦氏、上野氏、西浦氏と再生推進委員会の市民委員2名によるパネルディスカッションでは「女性が参加していないのは問題」「基幹となるプロジェクトは市民にとって遠い感じがする」といった意見も出された。

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